波留 映画『アナログ』木曜日、ピアノという店で!

波瑠の映画『アナログ』です。

清水デザイン研究所でインテリアデザインを担当する水島悟は、仕事の合間に養護老人ホームに入所している母を見舞いに行きます。
悟の父は悟が幼少の頃に病気で亡くなり、以来母が女手一つで悟を育ててくれました。

ある日、悟は自分がデザインを担当した『ピアノ』という喫茶店を訪れ、「みゆき」という女性と出会います。

悟はみゆきにとても魅かれるものを感じ、連絡先を交換したいと思いましたが、連絡先を聞いたら、二度と会えなくなるような気がしました。

彼女は「私は木曜日の夕方に、ここに来ています」と話します。

それを聞いて、悟は次の木曜日、ここに来ることにしました。
悟は、みゆきという名前以外は彼女のことを何も知りません。

そして一週間がたち、待ちに待った木曜日になります。
みゆきは喫茶店『ピアノ』に来ていました。

悟は思い切ってみゆきをディナーに誘います。
行き先は打ち合わせでよく使うイタリアンレストランです。

これまであまり女性と食事したことがなかった悟ですが、みゆきとの会話は自然と盛り上がりました。

悟は今度こそと連絡先を交換しようとするのですが、みゆきは連絡先を教えようとしません。

何もなければ、来週の木曜日も『ピアノ』に行く、と言うみゆきです。

店を出た悟は、「じゃあ来週」と言ってみゆきをタクシーに乗せます。

次の木曜日を待ち望んでいた悟ですが、この週は大阪出張があり泣く泣く諦めざるを得ません。
けれども、出張から帰ってきた次の木曜日にはちゃんと会うことができ、みゆきとの関係は順調に進みます。

悟には縁のなかったクラシックのコンサートに二人で行ったり、逆にみゆきのリクエストで焼き鳥屋に行ったり、楽しい時を過ごします。

みゆきは不思議な女性で、何度かデートをしても、みゆきの素性についてはわからないままでした。

そんなある日、悟の母親が施設で亡くなりました。

葬儀のため木曜日のデートはできません。
その次の木曜日、やっと会えたみゆきは、悟からは何も聞こうとしませんでした。
悟の友人の高木から母のことを聞いていたようでした。

悟は母のことを思い、声を出して泣いてしまいました。
みゆきは号泣する悟に優しく寄りそいます。
みゆきこそはかけがえのない女性だと、悟は実感します。

やがて月日は流れ、悟に転機が訪れます。
大阪のプロジェクトのため、昇進と引き換えに常駐することになります。
期間は短くとも1年。
その間、木曜日に東京に戻ってくるというわけにもいきません。

悟はみゆきに結婚を申し込む決意を固めます。
木曜日、悟は指輪を懐に忍ばせ、いつもの『ピアノ』へ向かいました。

しかし、その日彼女は店に現れませんでした。

次の木曜日もみゆきは店に来ません。
そして、その次の木曜日も。

連続で来ないみゆきに、悟はもう彼女のことはあきらめようと思います。

それから1年半後。
悟は大阪で、初期から関わっていたホテルのプロジェクトの仕事をしています。
順調な毎日ですが、どれだけ仕事で頭の中をいっぱいにしようとしても、みゆきへの想いは消えません。

彼女が来なくなった理由を知りたい悟ですが、みゆきの電話番号はおろか、住所も仕事も何ひとつ知りませんでした。

そんなとき、悟はどう見てもみゆきにしか見えない若い女性が写っているCDのチラシを見つけました。

チラシには、「突如、音楽界から姿を消したナオミ・チューリングのヨーロッパツアー時の音源を入手。最新の技術により見事に復元した名演の数々」と書かれてあります。

ナオミ・チューリング(旧姓 古田奈緒美)という女性は、国内外で天才ヴァイオリニストとして人気を博したそうです。
オーストリア留学中、ピアニストのミハエル・チューリングと20歳で結婚。
ヨーロッパを中心に演奏活動をしていましたが、ミハエルの急死により活動を中止。
帰国の後、音楽界から引退していると、書かれてありました。

みゆきにつながる大きな手がかりを得た悟は、煙のように消えてしまった彼女の居場所を突き止めるために動き始めます。

友人の高木に協力を頼みます。
彼は驚くべき情報を掴んできました。
みゆきは、悟が指輪を渡して結婚を申し込もうとした当日に、交通事故に遭っていたというのです。

急ぎ東京に舞い戻った悟は、高木の案内でみゆきの姉・香津美と会うことができます。
姉によると、みゆきは事故の影響で頭部に障害を負い、下半身は麻痺しているそうです。

想像以上に深刻な状態ですが、みゆきに会いたいという気持ちは揺るぎません。

姉の香津美は鞄の中から一冊のノートを取り出します。
みゆきの日記でした。

悟は少し色あせたページをめくりました。
読んでいるうちに、悟の目から涙がこぼれます。

日記の中には、『ピアノ』で初めて会った日のことも書かれ、木曜日をみゆきも待ちわびていたことがわかります。

悟はみゆきに会う決心をし、病院へ向かいます。
姉の香津美が病室に入り、窓際の車椅子に座っているみゆきに声をかけます。

みゆきは外を見たまま動きません。
悟はどうしていいか分からず、しばらくじっと彼女の後ろ姿を見ていましたが、思い切ったように、みゆきの正面に回ります。

そしてみゆきに声をかけます。

窓の外を見ていたみゆきが、目をゆっくり悟の方に移します。
悟の顔をしばらくじっと見ているようだったが、その目には何の感情も浮かんでいません。

みゆきの顔を見つめる悟。
みゆきに向けた微笑みはとうに消え、涙が溢れ出します。
我慢しようにも声が出てしまいます。
しばらくの間、悟はみゆきの前で声を出して泣きました。

突然、悟の顔にみゆきが涙を拭おうとするかのように、手を伸ばしました。
まるで母の死後会った時のように、彼女は悟の涙を拭こうとし、それに気が付いた悟の涙は止まりません。

添えている悟の手に、みゆきの手が重なります。
みゆきは前を向いたままですが、口元が微笑んでいるようにも見えました。

悟はどんなことがあっても、みゆきと結婚して自分が面倒をみようと決心しました。

悟は仕事をリモートに切り替え、みゆきと住むためのバリアフリーの広い部屋を用意します。
準備や仕事の引き継ぎなどが済み、ようやくみゆきとの暮らしが始まりました。

再会から2ヵ月後。
鎌倉の高台にある悟とみゆきの新居からは、美しい海が一望できます。

現在、心から安心してみゆきの隣で仕事をしている悟。
現代的な電子機器を使って仕事をするのを嫌がっていた悟ですが、今それらのおかげで愛する人と生活できるようになっていました。

「俺にとって、一番美しく幸せな景色とは、微笑むみゆきの横顔である。いつか犬でも飼って新しい車を買い、みゆきと犬を乗せてどこかへ遊びに行こう」

悟はそんな未来に思いを馳せると、またコンピューターに向かいます。