長澤まさみ 映画『ロストケア』!

長澤まさみの映画『ロストケア』です。

誰からも慕われる介護士・斯波宗典が、検事の大友秀美に罪を告白します。
斯波は40人以上の老人を殺害してきた、連続殺人犯でした。

すべての罪を告白した今、斯波の犯行動機に日本中が衝撃を受けます。
彼は認知症によりすべてを忘れてしまった老人と、その介護に生活を破壊されている家族を救うため、犯行に及んでいました。
斯波はみずからの犯行を「ロストケア(喪失の介護)」と称し、すべてを正当化しはじめます。
そんな斯波を前に、大友は命の尊さを説こうとしますが、彼女もまた、介護が必要な母親を抱える身でした。
果たして、正義はどこにあるのか。
被害者遺族すら斯波を恨まない事態に、大友の心は大きく動かされていきます。

斯波宗典は献身的に老人たちと向き合っていた介護士でした。
同僚からも好かれ、センター長の団からも信頼され、絵にかいたような好人物でした。
しかし、若くして白髪だらけで、どこか影のある人物でもありました。
そんな彼の犯行は、団が事故死した事件がきっかけで公になります。
ギャンブルとアルコールに溺れていた団は、ときおり利用者宅に忍びこみ、金品を奪っていましたが、偶然斯波と居合わせてしまいます。

ふたりは取っ組み合いになり、団は階段から落ちて死亡してしまいます。
その結果、利用者の老人も何者かに殺害されたことが発覚し、捜査線上に斯波が浮かんできます。
団の事件を調べていた検事・大友は、センターの利用者が相次いで亡くなっていることを不審に感じていました。
そのうえ、被害者の死亡日時と斯波の休日が一致していました。
大友は40人以上の老人を殺害した容疑で斯波を逮捕します。

事件は大きく報道され、斯波の同僚や、被害者遺族たちも動揺を隠せません。
誰もが斯波を「いい人」と評し、衝撃のあまり泣き出してしまう同僚まであらわれます。
果たして斯波が見せていた顔はすべて嘘だったのか。
彼は冷酷な連続殺人鬼なのか。
大友の尋問により、事件のすべてが明らかになっていきます。

斯波が殺人を犯した動機は、認知症になった老人と、その介護をする家族のためでした。
大友のように介護が必要な家族を老人ホームに入れる人もいますが、全員が全員、金銭的余裕があるわけでははありません。
斯波が出会ってきた老人たちのように、家族で介護をしている家庭も多くあります。

しかし、認知症を患った老人の介護をするのは容易ではなく、多くの家族は傷つき、疲れ果てていました。
自分の仕事と介護の両立ができず、身体が休まる時間もありません。
「家族である」という絆や愛情が、さらにストレスを与えていきます。
そんな現状から家族を救いたかったと、斯波は語り出します。

当然、大友はそんな斯波の思想を否定しますが、認知症の母をみずから介護せず、老人ホームに入れている彼女の言葉には説得力がありません。
「安全な場所から口を出しているだけ」と論破されてしまいます。

一方、母親の介護に苦しめられてきたシングルマザーの羽村は、新しい恋を見つけます。
彼女は小さい娘を育てつつ、仕事と介護をおこなってきたが、斯波のロストケアによって救われます。
大友が完全否定した斯波の犯行は、少なくとも羽村を介護疲れから救い、新生活へと繋げていたことが明らかになります。

また、斯波が“救っていた”のは家族だけではありませんでした。
認知症を患い、娘の名前すらわからなくなった老人たちをも救ったと語りだします。
その理由には斯波の過去が大きく関わっていました。
斯波が介護士になる前、彼は羽村と同じように実父の介護に追われていました。
仕事を辞め、父と暮らすようになった斯波でしたが、父の認知症が進んでからは人間らしい生活を送ることも難しくなります。

父のため、アルバイトに行くこともできず、生活は困窮します。
生活保護を受けようにも「あなたは働ける」と一蹴され、介護疲れから愛する父に対して手が出てしまいます。
そんな自分に対する嫌悪感や、愛情と憎しみの板挟みになってしまう状況から抜け出せなくなっていきます。
ある日、斯波は父から「殺してくれ」と頼まれます。
斯波はその願いを拒否しますが、父と自分のため、殺害を決意します。

斯波の過去を聞いていた大友の助手・椎名は涙を流します。
一歩間違えれば大友や椎名が、斯波と同じように、愛する家族を殺すしかない状況に追い込まれることもあったかもしれません。
斯波はかつての自分や父と同じような状況にいる者を救うため、連続殺人に及んでいたのだと判明します。
しかし、40人以上を殺害したという事実は変わらない。
大友は死刑を求刑し、ついに裁判が始まります。

裁判の中で、斯波は犯行の正当性を遺族や裁判官たちの前で独白します。
家族の絆が美しいものであると同時に、呪縛でもあることを大友に語りはじめます。
独白が終わった瞬間、傍聴席に座る遺族から「人殺し!」との声が上がり、斯波は初めて動揺します。

裁判を終えた大友は、刑務所にいる斯波を訪問します。
すべてが終わった今、彼に対し自身の過去を告白します。
大友は生き別れになっていた実父からの連絡を無視し、孤独死させてしまった過去がありました。
もし大友が連絡していれば、父は死ななかったかもしれません。
そして父の死を、老人ホームにいる母に伝えてもいませんでした。
その後悔の念が彼女の中にずっとありました。

大友は事件をとおして自身の過去と向き合い、記憶もおぼろげな母にすべてを伝え、実父を殺すしか選択肢のなかった斯波を想います。
場面は転換し、斯波が父を殺害する、まさにその瞬間が描かれます。
注射器を手にした斯波は、眠る父の腕にニコチンを注入します。
斯波の腕の中で、父は逝きます。

やつれた斯波は、父の傍らに置かれていた折り鶴を手に取り、開きはじめます。
そこには、父から息子へ感謝の言葉がしたためられていました。