多部未華子 舞台 NODA・MAP「兎、波を走る」!

多部未華子の舞台 NODA・MAP「兎、波を走る」です。

高橋一生、松たか子、多部未華子ら豪華出演陣が魅せる、野田秀樹2年ぶりの書き下ろし最新作です。
舞台は“つぶれかかった遊園地”から始まります。

迷子になった娘を捜す母親の妄想が、遊園地でリハーサル中の“不思議の国のアリス”のショーと交錯していきます。
“世界的な劇作家”の末裔たちも絡んで、物語は展開していきます。
母は“兎”と出会い、娘の行方を求めて“兎”を追いかけます。

芝居はまず『桜の園』のパロディから始まります。
元女優のヤネフスマヤ夫人とともに、シャイロック・ホームズが登場して、借金返済のため土地を手放すように説得します。

シャイロック・ホームズは、この土地をアミューズメントパーク化したいと考えていて、夫人はのらりくらりとかわしながらも、説得されそうな気配です。
夫人としては、手放す前にこの場所でもう一度芝居が観たいので、お抱えの脚本家に芝居の執筆を命じます。

お抱えの脚本家はチェーホフの血を引く知恵豊富で、ライバルの、ブレヒトの血を引くブレルヒトとともに、夫人が観たがっている「不思議の国のアリス」のような芝居を執筆し始めます。

そして、舞台上にアリスの物語が展開していきます。
脱兎が「脱兎の如く」舞台を駆け巡り、その後を追ってか追わずか、アリスがあちこち現れては消えていき、母を名乗る女が娘の行方を探して、走り回ります。
多部未華子はアリスを演じます。


話は時々、アリスではなく「ピーターパン」や「ピノキオ」にそれたりしますが、いずれも子供が行方不明になる話です。
母親は、脱兎の後を追えば娘が見つかるような気がして、追いかけていきます。

色々盛り込まれたメッセージが、短時間に詰め込まれていきます。
三里塚闘争の映像やよど号ハイジャックの犯人が亡命する瞬間が出てきたりします。

「38度の平熱線」とかいう意味深な言葉が出てきたり、全体主義国家風のスパイ訓練の様子が出てきたりもします。

芝居の中で「拉致」という言葉が出てくるに至って、これは北朝鮮による拉致問題を描いていることが理解できます。

そして、いささか唐突に脱兎が自分の正体を明かします。
「私の名は、アンミョンジン。1993年9月、38度線を越えました」という芝居の色をはっきりさせるセリフが発せられます。

脱兎は、実在の脱北者安明進でした。
そこからは脱兎の告白により、アリスが気を失ったまま袋に入れられて船で拉致されていく様子が描かれ、母の嘆きが痛切に響きます。

アリスが誰で、アリスの母が誰であるかは一目瞭然です。
子供がまだ日本に帰ってきていないことも、皆が知っています。
劇場は、母の嘆きへの共感で満たさます。

芝居はそこで終わらず、その劇中劇を堪能したヤネフスマヤ夫人が、とうとう土地を売り渡し、仮想空間の世界へ移り住むところまで描かれます。