新垣結衣 映画『正欲』水への特別な感情!

新垣結衣の映画「正欲」です。

新垣結衣のイメージからはだいぶ離れた難役を演じきります。

新垣結衣は、地元の広島にあるショッピングモールで働く桐生夏月を演じます。
仕事が終わり、夏月はひとりで回転ずしのカウンターに座り食事をします。

夏月の日常、代り映えの無い毎日が続きます。
家に帰るといつもの動画を再生します。
目を閉じると、部屋は水浸し、ベットの上で寝ころぶ夏月は、どっぷりと水に浸ります。
何とも言えない快楽を感じる夏月が映ります。

横浜地方検察庁に勤めるエリート検事・寺井啓喜は、息子が不登校になり妻の由美と衝突が絶えません。

息子と妻は、ユーチューブで動画配信をすると言い出します。
啓喜には、学校に行かないという選択が理解できませんでした。

今日も検察庁には犯罪を犯した者がやってきます。
万引き常習犯の女性を一方的に責める啓喜に、同僚の越川はある事件の記事を見せました。

その記事は、水を出しっぱなしにし蛇口を盗んで逮捕されたフジワラサトルという人物のものでした。
「水を出しっぱなしにするのが嬉しかった」と供述したフジワラは、水に性的興奮を得るという人物だったのではないかというのです。

越川の意見に「そんな奴はいないだろ」と頭から否定する啓喜です。

大学生の神戸八重子は、学祭に向けて、ミスコンのイベントに対し問題意識を持った者たちで新しく企画した、多様性を重視した「ダイバーシティフェス」の開催に向けて取り組んでいました。

大学のダンスサークルに出演を依頼した八重子は、感情をぶつけるようなダンスを踊る諸橋大也と出会います。
極度の男性恐怖症を抱える八重子にとって大也は、唯一、触れられても大丈夫な存在になっていました。

夏月の職場に偶然、同級生の西山が顔を出します。
同級生の結婚式に呼ばれた夏月は、気乗りはしないものの、佐々木佳道も地元に帰ってきたことを知り、会いたいと思っていました。

中学の頃の記憶が蘇ります。
あれは、気になった新聞記事を発表する時間でした。
同級生が水を出しっぱなしにして逮捕されたフジワラサトルの記事を読み上げ、クラス中が皆笑っています。

夏月は、「校舎の脇の古い蛇口を工事するから近付かないように」と言われ、自分の欲求に従い水道に向かいます。

そこにはすでに、同じクラスの佐々木佳道がいました。
ちゃんと話したことのない2人でしたが、蛇口をひねり吹き出した水しぶきの中、びしょ濡れになりながら互いを理解するのは充分でした。

佳道と再会を果たした夏月でしたが、水面がいつもより大きく揺れているようです。
友達と楽しそうに会話をし、女性と食事に行ったりと、普通にしている佳道に憤りを感じます。

佳道の家のガラスを割って逃げる夏月。
大晦日の夜、夏月は車に細工をし、ガードレールの看板めがけて突っ込んでいきます。

その瞬間、目の前に自転車の乗った人影が見えました。
慌てて、ブレーキを踏む夏月。
看板を避けて車は止まりました。
自転車に乗っていたのは佳道でした。

夏月と佳道は、その日、互いに死のうとしていました。
佳道が地元に戻ってきた理由は、両親が事故で亡くなったためでしたが、実のところは、もう一度やり直そうと考えたからでした。

両親の訃報に「俺がこういう人間だと知る前に死んで良かった」と、どこかホッとした自分に、変われるはずもないと諦めたことを告白する佳道です。

夏月はそんな佳道を誰よりも理解していました。
2人は次第に必要不可欠な存在へとなっていきます。

「この世界で生きてゆくために、手を組みませんか」
佳道のプロポーズを受ける夏月です。
けれど、そこに愛はありませんでした。

横浜に引っ越した夏月と佳道は、ありのままの自分を理解してくれる人が側にいることで、やっと安息の地を得ることができました。

商店街で買い物をする夏月は、人にぶつかったところを助けてくれた男性に、「奥さん」と呼ばれ、普通に結婚しているとみられたことに喜びを感じます。

助けてくれた男性は、妻とは別居中だと寂しそうにひとり帰っていきました。

寺井啓喜は、息子が配信する動画サイトが、幼児わいせつ動画にあたる疑いで停止されたことを知ります。
風船割や公園での水遊びなど、視聴者のリクエストに応え投稿していたことで起こったことでした。

啓喜の妻・由美は、自分と息子を理解しようともしてくれない夫に、家をでる覚悟を決めます。

佳道は、いつも閲覧する水の動画にコメントを寄せてくる常連、フジワラサトルに興味を持ちます。この名前を使うということは、自分たちと同じ「水フェチ」に違いないと考え、コンタクトを取ることにしました。

フジワラサトルのハンドルネームを使用していたのは、大学生の諸橋大也でした。

八重子から男性恐怖症の苦しみをぶつけられ告白された大也は、はじめ同情を求めているのかと怪訝さをあらわにします。
しかし、触れられても大丈夫な男性に出会えたことが奇跡のように嬉しくもあり、大事だからこそ相手を理解したいという切実な気持ちを必死に訴える八重子のことは、理解できる気がしました。

コンタクトを取り会った佳道と大也は、やはり同じ動画サイトで知り合ったコバセと名乗る、もうひとりの水フェチも交え、一緒に水の動画を撮ることになりました。

公園に集まった3人は、居合わせた子供たちと一緒に水遊びの動画を撮ります。

けれど、コバセには水フェチ以外にも他の嗜好がありました。
水に濡れた服が好きと言っていたコバセ・矢田部陽平は、小児性愛者でした。

ある日、夏月が帰って来ると、家の前にパトカーが止まっています。
家から、警察官と一緒に姿を現した佳道が連行されて行きます。

啓喜は、逮捕された佳道たち男性グループを担当することになりますが、どうにも理解に苦しむ供述に頭を悩ませていました。

矢田部の家からは証拠となる映像等が押収されており犯罪は間違いないものの、あとの2人は「ただ水が好きなだけだ」と供述します。

啓喜は、佳道の妻である佐々木夏月を呼び出します。
部屋に入ってきた夏月をみて驚きます。
何時ぞやに商店街で会った女性でした。

「あり得ないと思いますが、夫婦は水に特別な感情をお持ちですか?」
啓喜の問いかけに、夏月は静かに答えます。

「必死に生きてきたものを、あり得ないって片付けられたことはありますか? あなたが信じなくても、ここにこういう人間はいます」

そして、取り調べ中なので伝言は出来ないという啓喜に、夏月は言います。
「私はいなくならないから、と伝えてください」
そこには、啓喜には知りようもない深い繋がりがありました。